ウイスキー、時々和食

-CHIKURYA WHISKY-

【製造方法】ウイスキー製造工程の『発酵(ファーメンテーション)』について

【1】ウイスキー造りの工程である、『発酵』について理解できる

【2】『発酵』の工程について理解できる

 

 ウイスキー造りにおいて、『マッシング(糖化)』の次の工程になる『発酵』。『ファーメンテーション』と呼ぶケースもあります。本日は本工程がどのようなものなのかについて詳しく見ていきたいと思います。

前工程の『マッシング(糖化)』について詳しく知りたい方は以下リンクを参照ください。

chikurya-whisky-tokidokiwasyoku.com

 

ウイスキーの主な製造工程について

 ウイスキーは世界中で製造されていますが、どのような種類のウイスキーであっても”ウイスキー”と名前が付いているものは、以下の工程を経て造られます。

◆ウイスキー造りの工程◆
・製麦(モルティング)
・糖化(マッシング)
・発酵(ファーメンテーション)
・蒸留(ディスティレーション)
・熟成(マチュレーション)

 

 工程をより細分化することは可能ですが、まずは上記の各工程を理解することでウイスキーの楽しみ方に深みがでると思います。好きな銘柄が上記工程でどのような工夫やこだわりを持っているのかを知れば、きっと今まで以上にお気に入りの銘柄を好きになれると思いますよ。本日は上記工程の中でも『発酵』について詳しく見ていきたいと思います。

 

『発酵(ファーメンテーション)』について

ウォッシュバック

引用元:Undiscovered Scotland: Making Malt Whisky: The Washback

『発酵(ファーメンテーション)』とは、糖化の工程で生成した麦汁に酵母を混ぜてアルコール発酵を行う工程の事を言います。

 蒸留所によって発酵方法は異なり、蒸留所毎、銘柄毎に味の特徴に差がでる要素の一つです。一般的に、発酵時間が短いと重い風味のウイスキーとなり、発酵時間が長いと軽くすっきりした風味のウイスキーになると言われています。

 使用される酵母についても蒸留所や銘柄によって異なりますが、ウイスキー造りでは『ディスティラリー酵母』というウイスキー造り専用の為に開発された酵母を使用するケースが多いです。

 ビール造りでも大枠では同じ工程ですが、1点大きく異なる点があります。ビール造りでは酵母以外の菌が大敵であり、麦汁を一度沸騰させてから酵母を混ぜて発酵をさせます。一方ウイスキー造りでは蒸留工程で殺菌できる為、発酵段階では麦汁の沸騰はさせません。その為、ウイスキー造りでは酵母以外の微生物も活発に活動し、深みのある味わいになる傾向にあります。

 

『発酵(ファーメンテーション)』の工程について

◆発酵(ファーメンテーション)の工程◆
①麦汁の発酵準備  
②酵母の投入    
③発酵       
 
①麦汁の発酵準備
 糖化で得られた麦汁を、酵母が好む20℃前後まで冷却して発酵槽に入れます。発酵槽は『ウォッシュバック』と呼ばれており、このウォッシュバックの材質によってウイスキーの味に違いを生み出す要素となります。材質が木材なのか金属なのか、木材であればどのような種類の木材なのか等、蒸留所のこだわりは色々です。
 上記写真はイチローズモルトで有名なベンチャーウイスキー秩父蒸留所のウォッシュバックです。材質はミズナラであり、世界でミズナラで作られたウォッシュバックを使用しているのはここだけとの事です。
 
②酵母の投入
 ウォッシュバックに入れた麦汁に、酵母を投入します。ウイスキー造りにおいては、1950年代に開発された、『ディスティラリー酵母』が使用される場合が殆どです。本酵母は、効率的にエタノール発酵を行うことができる酵母であり、従来の酵母と比較して短い発酵時間で済むようになりました。また、エステルやフーゼルと呼ばれて、フルーティーさや、吟醸香を多く生成する為、ウイスキーと愛称が良いです。
 更に、麦汁を沸騰させ無い為、酵母以外の乳酸菌(ミクロフローラ)等の微生物も活発に活動する為、香りや味に深みがでます。
 
③発酵
 麦汁に酵母を投入すると、徐々に酵母の活動が活発になります。酵母の活動により、糖を食べて二酸化炭素を排出していく為、麦汁表面が激しく泡立ってきます。その際に吹きこぼれないないように、ウォッシュバック上部に取り付けられているヘラを使用して泡をつぶしていきます。
 

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発酵により激しく泡立っている麦汁
引用元:Get Wild: Everything You Need to Know About Coolships | VinePair
 15~16時間経過すると酵母の活動が最盛期となり、その後食べる糖が無くなっていくため徐々に酵母の増殖が止まり、その後最終的に酵母が死滅していきます。
 増殖しなければ、長い間生きる事ができるのに、全力で増殖し続けて、食べ物を食い尽くして死んでしまう様子は非常に不思議で興味深いです。トータル発酵時間は48時間~72時間であり、アルコール度数8~9%のウォッシュ(モロミ)が生成されます。これで、蒸留を行う準備が整いました。
 
 以上、本日はウイスキー製造工程の中でも『発酵(ファーメンテーション)』について見てきました。発酵の領域は非常に奥が深く、楽しいです。